昭和ポップスって、情景が浮かんでくるところが本当に好きです。
ここでは、何度も繰り返し聴いた思い出の一曲を、 完全に趣味として、好きなフレーズや作り手の魅力と一緒に振り返ります。
斉藤 由貴『卒業』
- デビューシングル
- リリース:1985年2月
- 作詞:松本 隆
- 作曲:筒美 京平
- 編曲:武部 聡志
斉藤由貴さん本人の実体験のように聞こえる曲
斉藤由貴さんは、アイドルの中でもどこか“別枠”の雰囲気がありました。 テレビでの受け答えも少し独特で、でもそれが彼女の素のままの感じとして伝わってくる。
この曲がリリースされたのは、彼女が高校3年生の2月。
だからこの曲の“胸の奥の本音”が、彼女自身の気持ちに重なって聞こえるんですよね。 イメージがぴったりすぎて、実体験のようなリアリティを感じます。
卒業式にタイムスリップ
制服の胸のボタンを 下級生たちにねだられ
頭かきながら、逃げるのね ほんとうはうれしいくせして
このフレーズを聴くだけで、卒業式当日にタイムスリップしてしまいます。
アルペジオで奏でられるイントロは、授業の始まりを告げるチャイム。 これが卒業式の朝だと思うと、卒業生はこのチャイムを聴くのが今日で最後になります。
そういえば私も卒業式の日に、後輩の女の子に第二ボタンをねだられました。 気恥ずかしくて、でもうれしくて。 何も起きなかったけれど、あの瞬間は今も覚えています。
時の列車がいま引き裂いた
ホームに立つ二人の間を列車が通過した瞬間に、 “引き裂かれた”と感じる女の子の感受性。
女の子は、もうすぐ逢えなくなることを理解している。 だけど男の子は鈍くて、卒業しても何も変わらないと思っている。 呑気に机にイニシャルを彫ってる(笑)
この年代の、男子と女子の精神年齢の差を感じますね。 男は、まだ子どもなんですよ。
想像をふくらませると、快速が停まらない田舎の駅で、 反対ホームに立つ二人。 上りと下りで家が違う方向にあるんだろうな、と思います。
男の子は南側の街寄り、女の子は北側の田舎。 女の子は地元に残り、男の子は卒業後に東京へ向かう—— あっ、これ、木綿のハンカチーフだ。
松本隆 × 筒美京平の代表的な曲の一つ。 『卒業』がその前日譚として書かれたと知る前に自分で気づけたのは、ちょっと自慢です。
卒業式で泣かないと、冷たい人と言われそう
みんなが泣いているから、自分も泣かなきゃいけない。 泣かないと冷たい人だと思われる。 そんな“人の目が気になる年頃”ってありますよね。
でも、この女の子は違う。 これからもっと悲しい瞬間が来ることを知っている。 だから涙は取っておきたい。
「泣かないこと」は、みんなと違うことをすること。 みんなと違うことをするのって、勇気がいるんです。
卒業とは、戻れないことを受け入れること
卒業式は、これまでの日常が終わる境界線。 この境界線を越えると、もう戻れない。 人との距離が変わってしまう。
卒業するときには「戻れないことを受け入れる」なんて覚悟はなかったけれど、 あとになってみると、そういうことだったんだなと思います。
Bonus Track
斉藤由貴さんのアルバム「AXIA」「ガラスの鼓動」「風夢」はよく聴きました。 彼女の曲は、女の子の内面を描いたものが多くて同世代の男の子はあまり聴いていなかったけれど、 感情を込めすぎず、抑えすぎない“ナレーションのような歌声”にうっとりしていました。
松本隆 × 筒美京平の“漢字二文字三部作”の「卒業」「初戀」「情熱」ももちろんいいですが、 森雪之丞 × 玉置浩二の「白い炎」もドラマチックで大好きです。
アルバムの中でも「石鹸色の夏」「土曜日のタマネギ」「お引越し・忘れ物」「砂の城」など、 情景が目に浮かぶ曲が多いですよ。
どの曲も、彼女が主人公のドラマを見ているような気持ちになります。


